廃炉資料館を見学したときの話

 福島の富岡町で廃炉資料館を見学して出たらまだ3時前だったので、もうすこし何か見ていこうと思い、駅と反対に向かって歩いた。とみおかアーカイブ・ミュージアムという震災伝承施設があるらしく、そこを目指すことにしたのだった。キャリーバッグが煩わしく、駅前の観光案内所で頼めば預かってくれたのではないかとすこし後悔していた。

 道中にラーメン屋があった。雰囲気のよい店だったので入ることにした。どのラーメンも一杯1000円以上するので驚いた。

 食べ終わってなんとなしに下りの電車を調べると、15分後の次は、3時間後まで間隔があくことに気づいた。実際のところ、アーカイブ・ミュージアムは何がなんでも行きたい場所ではなかった。せめて退屈せず過ごせるのならいいが、下手をしたら15分で見終わって手持ち無沙汰になる可能性もある。

 駅まで早足で戻るか? しかしこのキャリーバッグを引いてではたぶん間に合わない……と思いつつとりあえず席を立つと、反対側の席で食事していた作業服の男性二人が店を出るところだった。表に車が2台止まっていた。年下の男が食器を返し、年長の方が入り口の前でタバコを吸っていた。

 店を出て、しばらく腕時計に目を落としてから、タバコを咥えた男性に、ここから駅までどれくらいですか、と尋ねた。15分じゃ行かねえかなあ、と言われた。訊かれるまま、事情を説明した。乗せてってやろうかと言われた。お願いしますと答えた。

 しかしこんなとこで何してんのよ、と訊かれたので、廃炉資料館を見学が目的だったことを伝えた。アーカイブ・ミュージアムのことには触れなかった。男性は、なんちゃってエフイチ、と言って笑った。

 その人は車のトランクからジャンパーを取り出し、店から出てきたもうひとりに、結構いいだろう、などと言いながら渡していた。僕は時計が気になり気持ちが急いたが、彼の動きはゆったりしていた。

 キャリーバッグを後部座席に積み、自分は助手席に乗せてもらった。もう一台は駐車場を逆方向に出ていった。赤信号に差しかかったところで、運転席の男性が、あのクレーンのなかの一本動かしてるのは俺なのよ、と言った。予期していないことだったので驚きつつ、運がいい、と思った。あんまりいらんこというと怒られちゃうからさ、などと言いつつ話してくれたことのなかで、デブリなんてまあとりだせるわけないでしょ、うっへっへっへっへ、と笑うその声が印象に残っている。でもまあ、それじゃあ国民は納得しないでしょう、とも。

 駅に着き、お礼を言うと、男性は「ま、いわきの人間は優しいってことで」と言った。この辺りまで含めて「いわき」と呼ぶんだろうか、それとも家がいわきにあるんだろうか、と不思議に思いつつ、キャリーバッグを下ろし、走り去る車を見送った。

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